2014年06月26日
いるような気
坂口安吾の『桜の森の満開の下』。
ラジオの朗読で聴いたあとで、もういちど本で読み返してみた。
朗読ではかなり原文が省略され、脚色もされていた。だが、耳から入ってくる桜のイメージは美しかった。
小説では桜花の美しさよりも妖しさが、女(鬼)のそれとダブるように切々と書き込まれている。
山賊は花の前でしきりに煩悶する。
花の美しさは永遠ではない。いっときの幻に似た、とても困った美しさなのだ。
花の下は、
「冷めたい風が吹いているからだよ」
「涯てがないからだよ」
という山賊の言葉が耳から離れない。
桜の花を見ると、どこやらに鬼が潜んでいるような気がしてならない。
写真の標識を目にしたときも、バックが桜だったので、鬼に向かって「とびだすな」と警告しているような、たのしい錯覚をした。
標識の背後の、花の闇からとびだしてくるのは鬼なのだ。
きっと誰かが、鬼に向かって警告しているのだ。
Posted by はぬねの at 16:12│Comments(0)
│lortoyou